【MOD紹介】Network Multitool のすゝめ

【MOD紹介】Network Multitool のすゝめ

こんにちは。ケミカルです。

今回は、MOD「Network Multitool 1.2」について解説します。

本コラムでは、現在のMOD制作現場の最前線における制作のトレンドや、MODの歴史を掘りながら、この革命的なMODの機能を解説していきます。

なお、MODの使用は自己責任でお願いいたします。

前説・用語の定義

シティーズスカイラインには様々なネットワークがあります。

※前回記事と同様の用語と、その定義です。
道路・線路・歩道・フェンス・送電線など、始点と終点を決めて、曲線・直線で引いてマップ上に配置するものは総じてネットワーク(Network)と呼ばれます。このネットワークの始点・終点に加えて、ネットワークの交点や中継点も含めて、これをノード(node)と呼び、これらノードに接続する直線・曲線のことをセグメント(segment)と呼びます。十字路で例えるなら、十字路の交差点そのものはノードの一種で、一つのノードに四つのセグメントが接続している、と解釈できます。

シティーズスカイラインのゲームプレイに、ネットワークは不可欠な存在です。

道路や線路、フェンスなどはもちろんですが、それだけには限りません。

美観にフォーカスすると、擁壁(法面)などの壁、防波堤、生垣、防音壁、あるいは駐車場など、様々なネットワークのカスタムアセットが有志の皆様によって制作されました。

背景として、同じ構造が連続しているものであれば、なんでもネットワークとしたほうが、取り扱いが良かったのです。

この結果、本来のカテゴリを超越したネットワーク型のカスタムアセットが出回るようになります。

これらを使うことで現実的な町並みを作ることができるのですが、そのためには、これらカスタムアセットのネットワークを多数配置したり、近接な位置に複数配置する必要が出てきました。例えば道路ギリギリに岸壁ネットワークを置くとか。例えば高速道路本線に防音壁を併設するとか。

しかし、後述する様々な理由から、近接した位置に複数・多種のネットワークを混在させると、バニラでは手に負えなくなりました。多種多様なネットワークがあるからこそ、このような問題が発生してしまったのです。

本MODは、「Intersection Marking Tool」「Building Spawn Point」「Node Controller Renewel」などで知られるmacsergey氏によって開発されたMODです。

Network Multitool(NMT)は、ネットワーク全般に使える素晴らしい機能を多数持ったMODです。

NMTは、確かに革新的なMODであり、NMTにしかない独自の機能も大変すばらしいと思います。

しかし、先の問題は今に始まったことではなく、ネットワーク型のカスタムアセットの普及に合わせるように、この問題に対抗する様々なMODが、数多の有志によって開発・改良されていきました。

あえて言わせてほしいのは、NMTは、既にあるネットワーク関連MODを統合しつつも、機能・操作性が追加・改良されたMODであるということです。

これは余談ですが、前回本サイトにMOD「Node Controller Renewal」の紹介コラム(リンク)を寄稿させていただきましたが、今回紹介するMODも、これと同じお方が開発されたMODになります。これは贔屓ではありません。むしろコラムを書く頃には注目せざるを得ないMODを開発してくださっているからといいますか、このコラムの更新頻度がそこまで高くないからこその良いサイドエフェクトといいますか。ともかくmacsergey氏が凄いのが悪い(笑)

Network Multitool(NMT)の執筆時点(2021年10月29日)でのバージョンは1.2です。

機能概要

この記事の執筆中に、フォトコンテストの審査委員長でおなじみの神乃木リュウイチ氏のチャンネルに「Network Multitoolの機能と使い方」と題されたゆっくり音声による解説動画が投稿されました。

90秒で極めて分かりやすく機能概要を説明してくださっているので、是非こちらをご覧ください。

昨今のMOD制作のトレンド

NMTそのものの説明とは少し脱線して、この話に触れておきます。

シティーズMODすこすこ侍の筆者としては、最近のMOD制作の動向は従来と変わりつつあるように思います。

従来のMOD制作では

  1. 今までなかった機能を持つ
  2. (MOD制作者の思うに)シティーズに足りないので欲しい・自分で作りたい
  3. 欲しい機能さえ実装できてしまえば十分

このようなMODが制作されていたように思います。

しかし、特に最近のMOD制作では

  1. 今までにあったMODの持つ機能の
  2. (MOD制作者の思うに)シティーズでより便利に使いたい、動作を軽くしたい
  3. ユーザビリティの高さや完成度を重視する

このようなMODが制作されることが多いように思います。

これは恐らく、大きく2つの理由が考えられます。

一つはMOD製作者様の引退、もう一つは、やはりMOD「Harmony 2」の登場でしょう。

つまるところ、MODの開発というよりは、MODの改良・統合の動きが活発になっているように思います。

現に、筆者が今注目しているMODが「Tree Anarchy」「Prop Anarchy」「Image Overlay 2」などなのですが、実はこれらすべて、改良や統合のなされたMODです。

シティーズスカイラインの歴史は長いですが、ここらで一つ、大きな転換点を迎えたように思います。

ネットワーク系MODの歴史的背景

前説でも述べたように、NMTがネットワークの配置・変更のアシストをしてくれるMODとして初めて登場したわけではありません。

Networkの問題は様々ありますが、特に、近接した位置に複数・多種のネットワークを混在させると発生する問題は大きく4つあります。

  1. 並列して、複数のネットワークを配置することが難しい。
  2. 敷設するネットワークが周辺のオブジェクトと接触して配置できない。
  3. 不必要なノードができてしまう。
  4. スナップの切り替えが面倒。

シティーズスカイラインの歴史の中で、これまでに幾度もネットワークの配置・アップグレード・削除に関する試みが積み重ねられてきました。

その歩みを紹介しましょう。

Parallel Road Tool

このMODは、ネットワークの配置の手間を省くアプローチで制作されています。

「Parallel Road Tool」は、S__T氏によって2018年7月に公開されたMODです。

並列した形で、複数のネットワークを同時に配置できるという斬新さが非常に素晴らしいですよね。

前説で例に挙げたような、道路に沿って岸壁を敷設する、高速道路に防音壁を敷設する、というような操作が可能になりました。

Steam Workshop Link

「Parallel Road Tool」Workshopページより引用。

Anarchy系MOD

このMODは、ネットワークの配置の制約を取り払うアプローチで制作されています。

Anarchyとは「無秩序」という意味の英語で、この場合は、シティーズスカイラインのシステムを無視した操作ができるようになることを差します。

ここでは、特にネットワークに関連するAnarchy MODを2つ紹介します。

Fine Road Anarchy 2

2というように、元は1(無印)がありました。

「Fine Road Anarchy」は、 2016年頃にBoogieman Sam氏(現:SamsamTS氏)によって公開されたMODです(既にWorkshopから削除されています)。

その後、2019年8月にklyte45氏によって互換性の問題の解消や、Boogieman Sam氏の引退による後継MODとして改良・開発されていった経緯があります。

マップ上に存在するオブジェクトには設置判定があります。

本来、既に設置してあるオブジェクトの領域と重複する形でオブジェクトを設置することはできません。

もちろんネットワークも例外ではありません。

「Fine Road Anarchy 2」は、その他のオブジェクト設置判定を無視して配置することができます。

また、スナップのオンオフ機能を押すと、不必要なノードの出現を軽減できます。

近くのセグメントが今敷設したいネットワークと重なっていようとも、これをオフにしておくことで、近接な位置にネットワークを敷設できるようになるわけです。

自由なネットワークの配置ができるようになるためには、無茶なネットワークの配置ができるようにならなければならないというところですね。

後述する「Fine Road Tool 2」と互換性があります。

「Fine Road Anarchy 2」Workshopページより引用。

Steam Workshop Link

Quay Anarchy

「Quay Anarchy」は、2016年3月にBloodyPenguin氏によって公開されたMODです。

本来であれば、地上に岸壁ネットワークを配置することはできません。

これは、岸壁ネットワークの配置箇所が水面に近いかを判断しているからです。

「Quay Anarchy」は、この判断を無視して岸壁ネットワークを配置することができます。

コンソール版だと「地上岸壁」と呼ばれますが、このMODがあれば(地上岸壁を作るために)まずはウォーターディスペンサーを置いて…水を溜めて、水を抜いて…ということはありません。MOD環境なら直置きです。

Steam Workshop Link

Move It

このMODは、ネットワーク(を含むオブジェクト全体)の配置や削除を自由にできるようにするアプローチで制作されています。

私もこのサイトにコラム「Move It のすゝめ」を書かせていただいたことがありますが、我々の言う「Move It」は言うなれば「Move It 2」であり、「Move It」の原初は、かつてBoogieman Sam氏によって公開されていたものとされています(既にWorkshop削除済み。有識者情報求む)。

我々のよく知る方の「Move It」は、2019年1月にQuboid氏によって公開されました。

「接触判定があるなら、別の場所に敷設して、後で動かせばいいんじゃね??」

「配置したネットワークの形が気に入らないなら、後で動かして直せばいいんじゃね??」という。

なんとも革命的なMODでありました。

Steam Workshop Link

Fine Road Tool 2

このMODは、ネットワークの配置やアップグレードの自由度を高める自由度を高めるアプローチで制作されています。

「Fine Road Tool 2」は、「Fine Road Anarchy 2」と同時期の2019年8月にklyte45氏によって互換性の問題の解消や、Boogieman Sam氏の引退による後継MODとして改良・開発されました。

ネットワークの高さが自然な勾配になるように自動で調節したり、敷設する地面の状態に因らず、強制的に道路タイプを変更できる機能が優秀です。

本来のネットワーク敷設の条件から考えると無理な配置になることもありますから、このMODを導入される方には、互換性のある「Fine Road Anarchy 2」の同時導入を推奨します。

「Fine Road Tool 2」Workshopページより引用。

Steam Workshop Link

Elektrix’s Road Tools

このMODは、ネットワークのアップグレードや置換の自由度を高めるアプローチで制作されています。

「Elektrix’s Road Tools」は、2019年2月にElektrix氏によって公開されました。

例えば、ノードを削除する機能は、誤って生じたノードを削除することができますよね。

逆にノードを追加する機能は、セグメントを適当な長さになるように一部撤去したり、適当な長さのセグメントのアップグレードに役立ちます。

Steam Workshop Link

Advanced Road Tools

このMODは、配置されたネットワーク同士の接続の手間を省こうというアプローチで制作されています。

『Advanced Road Tools』は、2019年12月にpcfantasy氏によって公開されました。

このMODでは、ついにネットワークを自動で引けるような試みがなされました。

始点と終点となるネットワークの末端めがけて自動でネットワークの敷設位置を選定し、自然な曲線を描画してくれます。

Steam Workshop Link

NMTとかいう革命

「Network Multitool」は、2021年7月にmacsergey氏によって公開されたMODです。

今までの説明を使ってNMTのことを簡単に説明するならば、NMTは「『Elektrix’s Road Tools』と『Advanced Road Tools』の機能を統合し、『Parallel Road Tool』を無下にしないながらも、機能を踏襲して改良し、独自の機能をさらに搭載しながら、制作者らしいインタフェースで機能を統合した、まさに十徳ナイフのようなMOD」といえるでしょう。

シティーズスカイラインの歴史が長いからこそですが、残念なことに、何らかの理由で、MOD制作者様が引退されてしまったり、MOD開発・更新を停止されてしまうこともあります。

現に『Elektrix’s Road Tools』を開発されたElektrix氏や『Move It』や『Fine Road Anarchy』を開発されたBoogieman Sam氏は、名前を変えてシティーズのMOD開発から引退されてしまっていますし、『Parallel Road Tool』『Advanced Road Tools』は、ここ一年以上、MODの更新がありません。

ネットワーク系MODの開発は、先人から脈々と受け継がれ、次の世代へとバトンは繋がれたと見ていいでしょう。

ノードの追加・削除・セグメントの反転・クロス結合・ストレートスロープの機能はElektrix’s Road Toolsそのものですし、ループ接続・カーブ接続・ストレート接続も、Advanced Road Toolsの影響を多少なりとも受けていると思います。

NMTのやべぇ機能・パラレル敷設

NMTでは、ツール起動中にCtrlキー、もしくはAltキーを押しながら任意の数字キーを押すことで、アクティブなツールを変更できます。

デフォルトではCtrl+0~9,Alt+1~4に計14種類のツールから選ぶことができます。

『Parallel Road Tool』の機能を受け継いだ「パラレル敷設」について解説します。

パラレル敷設の特徴は、”既に敷設してあるネットワークと並列して“ネットワークが敷設できるということ。

というのも、『Parallel Road Tool』では、配置したいネットワークを並列してブラシにし、一気に敷設する方式を取っています。

ところで、この記事のアイキャッチの画像は気に入ってくれましたか?これです。

急峻な山沿いと海沿いを走る貨物列車。自画自賛で申し訳ないですがこれはいいですね😊

そんなこの画像ですが、線路はネットワークで、岸壁も擁壁もネットワークのようです。

どのように線路が引いてあるのか、空撮で観てみるとしましょう。

ネットワークの配置。Move Itで各ネットワークを選択し、強調表示してみた。

おや、ネットワークが3本…ではなさそうです。

実は、崖側には芝生の崖上部分の地面としてSurface Networkを、海側には海岸の高さを調整するためにTerraforming Networkが敷設されています。

ということで、「Parallel Road Tool」を使ってこの線描をするためには、6本のネットワークを完璧な位置に設定してブラシを作り、一気に敷設することになります。

さて、ここで皆さんに問いたい。

配置する位置も高さも違うこれらネットワークを一発で完璧に引くことができるのだろうか?と。

「Parallel Road Tool」の方式は敷設するネットワーク同士の間隔や高さを失敗して配置してしまうと、Ctrl+Zでやり直すようなことはできないので、(ネットワーク同士の間隔や高さが合っている一部分を含めて)全てのネットワークを壊して、再度チャレンジするという形になります。

これに対してNMTは、既に敷設してあるネットワークを基準に、ツールが自動で敷設してくれるので、基準になるネットワークさえしっかりしていれば、特に問題なく配置することができるようになります。

これは個人的な感想ですが、Parallel Road Toolによるパラレル敷設は、必ずと言っていいほど一回は失敗するので、NMTのアプローチは、リスクマネジメントを考えると理にかなっていますよね。

しかも、結果は同じでもアプローチの仕方が全く違うので、両MODの併用もできて(NMTと互換性の無いMODの報告はない)、「Parallel Road Tool」でパラレル敷設に失敗しても、NMTでリカバリーもできるという、「Parallel Road Tool」を無下にしていないというのも素晴らしいと思います。

思い出したように機能の操作に関して触れておくと、パラレル敷設の基準となるネットワークは、Ctrlキーを押しながら複数選択することで、PCスペックの許す限り、長大なパラレル敷設が可能です。

パラレル敷設は基準となるネットワークからの距離の正負を反転するトグルにTabキー、セグメントの反転トグルにTab+Shiftキー、高さの上げ下げに[ ](括弧)、横方向にスライドにイコール/ハイフン(=/-)のキーを押します。

イコール/ハイフンは英語キーボード対応ですし、他のMODとの干渉を考えながら、Shift/Ctrl/Altとの組み合わせにしないように、キーを変更してくださいね。

最後に

このMODの登場によって、ネットワークの敷設・撤去・アップグレードに関する問題の多くはこれ一つで解決、という形になったように思います。

バトンがしっかりと受け継がれたことで、万が一シティーズそのものがアップデートされてMODが使えなくなったとしても、MODの更新はアクティブなものになりましたし、Harmony 2に対応したことで、より近代的なMODの内部処理が可能になりまして、MODのできることの幅も広がりました。

さらに、macsergey氏のMODらしく、機能の使いやすさ、ユーザビリティが極めて高く設計されています。

キーコンフィグはオプションから自由に変更できますし、やはりshg166氏が日本語に翻訳してくれていて、可読性は良好です。

今時のMODの進化が凄い、というのが、今回の総括になります。

長々と失礼しましたが、皆さんに少しでもご理解いただけたら幸いです。

2021年10月29日

Chemical