※この記事は、らくしげが2019年に個人ブログに書いた記事を加筆・修正し移転したものとなっています。
「ミシガン・アーバン・ダイヤモンド型インターチェンジ (Michigan Urban Diamon Interchange, MUDI)」という形状のインターチェンジが存在する。らくしげがCities: Skylinesの実況プレイ動画を作り始めただいぶ初期の頃から度々制作しているものだ。
この形状のICは省スペースでの建設が可能で、車の動きも特徴的で他のICには見られないものとなっている。以下の図がMUDIの形状を示している。
しかしこの種類のインターチェンジに関して、2021年現在、日本語はおろか英語でもまともに情報を集めるのが難しい。そのためこのブログ記事では、私らくしげが調べた一次文献を読み解いた結果をまとめて見たいと思う。(私は日本におけるMUDIの伝道者を自負している!)
ちなみに、私のCities Skylines実況プレイ動画でのMUDIの再現では道路を一部高架化しており、正確に言えば全く同じではない。これはCities Skylinesでは交差点の一方通行の制御がしにくいため、高架化して右左折を簡素化しているのである。動作はMUDIとほぼ同じになっている(実際は少し違うのだけれども)。実際の形状を再現するには、MOD「TM:PE」が必要になる。なおCities: SkylinesのWorkshopでMUDIを再現している人もいくつか見かけたが、私が確認した限りでは、残念ながらそれらはMUDIの動きになっていない。
目次ミシガン・アーバン・ダイヤモンド型IC(MUDI)の情報を探す
MUDIについての一次情報
MUDIについての一次情報を得たいならば以下の論文が有用だ。1998年にミシガン運輸局とミシガン州立大学が共同で研究を行った結果をまとめた論文で、MUDIを初めてかつ精緻に分析した、唯一の文献だろう。実はこのメンバー+αの名義で抜粋版のような別論文もあるが、この論文が元になっているので、実質はほぼ唯一だ。20年以上前の論文だが、なんと無料で読める。
Maleck, T L, and Dorothy, Paul B. W. (1998). “An Evaluation of the Michigan Urban Diamond Interchange with respect to the Single Point Urban Interchange.” Michigan Department of Transportation. https://www.michigan.gov/mdot/0,4616,7-151-9622_11045_24249_76865_76867-402377–,00.html
(以下、Maleck and Dorothy 1998.)
この論文が持つ情報量は多量で、論理的に記述されており、分析は非常に精緻で、また目的と結論もわかりやすい。研究論文のお手本のような素晴らしい論文だ。そして何より、新たな興味深い見解も出てきている。
MUDI論文のざっくり説明
論文の文体というのは非常に堅苦しいので、読み慣れていない人にとっては読みにくいかもしれない。そこで、内容をわかりやすくものすごくラフに要約すると以下のようになる。
※注意:アメリカなので、右側通行が前提として書かれている。つまりこれ以降で「左折」と書かれているのは、日本における「右折」(=優先されない交通)のこと。
- 街が都会になってくるとインターチェンジって混むよね。ダイヤモンド型ICだとキャパが限界だな~。
- ミシガン州には一点都市型IC(以下SPUI)が無いけど、これを導入しようか検討したいね。
- まずSPUIを色々な方法で調べましたよ。文献調査から始まり、色々な州にEメールや電話で聞き取り調査し、実地調査もした。
- そういえばミシガン州にはMUDIっていうダイヤモンド型ICを改良したICがあった。こいつの効率も実際はどうなんだろう?
- MUDIと、SPUIと、ダイヤモンド型ICの効率をコンピューターシミュレーションで比較するぞ~。
- 色々なパターン(シナリオ)でシミュレーションしてみた。交通量変えたり、車を右左折させたり、次の交差点までの距離変えたり。
- MUDIは、SPUIとダイヤモンド型ICに比べて色々な状況で効率が良かった!特に左折が多くて、かつ混雑レベルが高いとより効率が良いね。
- SPUIは良いと言われているけれど、状況によってはダイヤモンド型ICのほうが効率が良かったりもする。
- 「改良でICの効率が良くなる」って言っても、待ち時間が別の交差点に移ってるだけかもよ。それってダメじゃない?
- MUDIはなかなか良かったね~。
…という感じだ。私も細かなシミュレーションの部分などは読み飛ばしている。このような読み方は論文の正当性を検証していないという点で<本当は>ダメなのだけれども、まぁ、検証は専門家たちに任せたい。というか、この論文はMUDIにおける唯一の一次文献なので、世界中の専門家たちが検証してくれているだろう。私がやる必要は無い。
少し話が逸れてしまった。この記事ではインターチェンジに興味があるブログ読者とともにこの論文を読み進めていき、MUDIについての一次情報を得て理解を深めるという内容の記事にしたいと思い、書いている。
MUDI論文(Maleck and Dorothy 1998)を読解する
今回この記事を書くにあたり、改めて本論文を読んで一部の翻訳をした。日本語逐語訳にしたが、専門用語かどうかもわからないことも多かった。誤訳、定訳と異なる、解釈が違うなど、お気付きの点があればご指摘頂きたい。
要旨
それでは文献を読み進めていこう。まずは要旨からだ。
[Abstract]
Maleck and Dorothy 1998.
The Michigan Department of Transportation (MDOT) is considering the much needed rehabilitation and upgrading of many interchanges found in urban environments. Thus, MDOT and Michigan State University (MSU) undertook a joint effort to evaluate the appropriateness of an urban interchange geometric configuration, the Single Point Urban Interchange (SPUI), as an alternative design to those presently used by MDOT. In particular, the Michigan Urban Diamond Interchange (MUDI) and the traditional diamond were investigated. A field review was conducted to collect information about the geometric design, signal operation, pedestrian control and pavement markings of SPUIs, as none currently exist in Michigan. The field review showed that the design and operation of SPUIs vary greatly from state to state. Thus, the SPUI and MUDI designs were computer modeled to facilitate a comparison of their respective operational characteristics. A traditional diamond was also modeled to generate a frame of reference. The results showed that the SPUI operation is adversely affected with the addition of frontage .roads. MUDI operation, in most situations, is superior to that of either a SPUI and diamond interchange configuration. Also, there was less migration of delay to downstream intersections with a MUDI configuration than with either a SPUI or diamond. Finally, MUDI operation, in most situations, is insensitive to the proximity of the closest downstream node, while the SPUI operation is sensitive.
ミシガン運輸局は、都市部の環境の中に見られる多くのインターチェンジを復旧し、性能を高める必要が大いにあると考えている。そこでミシガン運輸局とミシガン州立大学は、都市部のインターチェンジの曲線・直線形状[geometric configuration]についての妥当性を評価するための共同研究を行った。対象は一点都市型インターチェンジ(SPUI)[Signle Point Urban Interchange]であり、これは都市部におけるインターチェンジの代替的な構造として、ミシガン運輸局によってまもなく使われる。特に、ミシガン・アーバン・ダイヤモンド型インターチェンジ(MUDI)と伝統的なダイヤモンド型ICが調査された。ICの曲線・直線形状、信号の運用、歩行者の制御、路面標示についての情報を収集するために、現在ミシガン州には存在していないがSPUIの実地調査が実施された。その上でSPUIとMUDIの形状は、それぞれの運用上の特徴を比較することを手助けするために、コンピューターによるモデル化がされた。伝統的なダイヤモンド型ICも、参考の考え方を作るためにモデル化された。結果は以下の通りであった。SPUIの運用では、側道があることで悪影響を受けることがわかった。MUDIの運用では、ほとんどの場面において、SPUIやダイヤモンド型ICのいずれの形状における運用よりも優れていることがわかった。また、MUDIの形状では、下流の交差点へ向かう時の待ち時間への移行はSPUIやダイヤモンド型ICの交差点よりもより少なかった。最後に、ほとんどの場面においてMUDIの運用では、下流側の最も近い交差点が近接していることに影響を受けず、一方で、SPUIの運用では影響を受けることがわかった。
論文というのは「要旨」が必ずある。今風に言えば「忙しい人のための」短くまとめた文章だ。1ページで論文内容がまとまっている。目的、課題、方法、結果(結論)が書かれる。ここには「SPUIとMUDIとダイヤモンド型ICを比較して、MUDIが中々良かった」ということが書かれている。なるほど。中々良さそうなICだ。
ちなみにMUDIは一般道×高速道路という交差、つまり「インターチェンジ」(interchange)なのだが、これが一般道×一般道の「交差点」(intersection)の場合は、「ミシガン式交差点」(Michigan Left)という名称になる。
MUDIの概要
ではMUDIがどのような形で、どういった動きをするICなのかを読み解いていきたい。pp.5-7にMUDIの概要が書かれている。
[pp.5-7]
Maleck and Dorothy 1998.
The Michigan Department of Transportation (MDOT), borrowing from its indirect left-tum strategy implemented for most at-grade urban boulevards, modified the traditional urban diamond in an effort to increase the capacity. This modified diamond interchange configuration will be referred to as the Michigan Urban Diamond Interchange (MUDI) (Figure 1.3). This configuration evolved during the design and construction of freeways in the early and mid 1960s.
ミシガン運輸局は、多くの平面交差の都市部大通りに適用されている間接的に左折をさせるという戦略を借りて、伝統的な都市部のダイヤモンド型インターチェンジを改良した。これは道路のキャパシティを増やすための努力の結果として行われた。この改良されたダイヤモンド型ICの形状は、ミシガン・アーバン・ダイヤモンド型IC(MUDI)として参照されることがある(図1.3)。この形状は、1960年代初め~中頃にかけて高速道路を設計や建設していく中で進化してきたものだ。
MUDIは「左折を大通りで行わないようにしよう」という発想でダイヤモンド型ICの改良してできたものだという。1960年代ということで、意外と古い。MUDIは他州にはなく、ミシガン運輸局が開発した独特な形のようだ。
ただしアメリカでの高速道路の建設は1920~30年代に始まっている。最初期のIC(ダイヤモンド型IC、トランペット型IC等)もこの時代に作られた。つまりMUDIは最初期のIC形からは一歩発展している形状とも言える。これが「伝統的なダイヤモンド型」(traditional diamond)という対比の言葉が使われる理由だ。
SPUIもダイヤモンド型ICの改良型で、これは1970年代から建設されたもの。この論文中にも詳細があるが、今回はMUDIに焦点をあてた記事なので、SPUIの解説は省く。SPUIの歴史を少し述べると、アメリカ道路運輸建設業協会(ARTBA)によれば、ワーレイス・ホークス氏という人が設計し、最初はフロリダ州で建設された後、全米に建設が広がっていった。どうでもいい情報だが、このワーレイス・ホークス氏は、南東米国・日本協会の副会長も務めたそうだ。 T. Wallace Hawkes | American Road & Transportation Builders Association
ちなみに日本語版のWikipediaにはSPUIの例として「美女木JCT」が記載されている。これはJCTのため、正確にはSPUIではない。鹿児島ICが日本で唯一のSPUIなのではなかろうか。
私なりにICの世代を整理すると、ダイヤモンド型ICを「第1世代インターチェンジ」として、MUDIやSPUIはそれを改修した「第2世代インターチェンジ」と言える。さらに先取りして言うと21世紀に分岐ダイヤモンド型IC(DDI)が開発されるが、これを「第3世代インターチェンジ」と名付けることができるかもしれない。
~らくしげによるICの世代分類~
- 第1世代:ダイヤモンド型、クローバー型など、20世紀前半に設計されたIC
- 第2世代:SPUI、MUDIなど、20世紀後半に設計されたIC
- 第3世代:DDIなど、21世紀に設計されたIC
具体的な車の動き①
次に、MUDIにおける具体的な車の動きを見ていこう。なお論文中の図はそのまま引用できないので、私がPPTで簡単に(雑に)描いた。これがMUDIの形と動きを示す図だ。以降本文中に出てくる「図1.3」はこの図と同様のものだと認識してほしい。なお、かなり雑に描いたので車線数などはちゃんと反映していない。その点はスルーしていただきたい。
以降、この図を用いて説明していく。
The MUDI is an urban diamond with left-turning vehicles being routed through separate left-tum structures known as directional cross-overs. Thus, left-turning movements are prohibited at the intersection. As an example, a driver traveling from bottom to top along the arterial wanting to access the left entrance ramp to the freeway would make a direct left-turning maneuver at a standard diamond interchange. For the MUDI, the driver would turn right at the first frontage road, travel to the directional cross over, make a U-turn through the cross over, travel from right to left to the arterial, cross the arterial and access the entrance ramp, thus completing the desired left tum. Similarly, a driver desiring to access a business adjacent to the service road in the opposite direction would use the cross-overs to change direction and gain access. Evident in these maneuvers is the associated increased travel distance.
Maleck and Dorothy 1998.
MUDIは都市部におけるダイヤモンド型ICであり、左折する車が、方向転換交差[directional cross-overs]として知られる独立した左折構造部分を通っていくようになっている。そのため、交差点では左折の動きが禁止されている。例として、幹線道路の下から上へ運転する運転手が、高速道路の左の入口ランプに移動したいと思った場合、標準的なダイヤモンド型ICであれば直接左折をすることになるだろう。MUDIの場合は、運転手はまず側道を右折することになり、方向転換交差まで運転し、その交差を通ってUターンし、右から左側へ幹線道路に向かって運転し、幹線道路を通行し、入り口のランプに入り、そうして望んだ左折が完了することになる。同様に、反対側の側道に近接する事業所に行きたいという運転手は、方向転換交差を使って方向を変えて目的地に着くことになる。これらの誘導で明らかなのは、方向転換をするのに関係する移動距離が増加しているということだ。
一点補足。”travel”という単語は直訳では「旅行」になる。日本の交通工学でも通常は「旅行」と訳すようだが、ここではわかりやすさを重視して「運転する」などの意訳を用いる。
このあたりは私の動画でも説明しているが、MUDIの特徴として方向転換に長い距離を要するのである。これが他のICには無い特徴で、一見、不合理のように思える。
さて、文中で説明されている動きを図を用いて説明しよう。まず「方向転換交差[directional cross-overs]」とは、以下で丸をつけたの部分だ。従来のダイヤモンド型ICに、この細い方向転換のための道路を付けているのがMUDIだ。
「幹線道路の下から上へ移動する運転手が~」の説明は以下の図の通りだ。かなり遠回りだ。
「反対側の側道に近接する事業所に行きたいという運転手は~」の説明は以下の図の通り。
The distance that the directional cross over structure is placed from the crossroad is a function of the cycle length of the traffic signals and the speed of the movement. Properly designed, if the left-turning maneuver described above began from the start of green, it should receive a green indication at both the cross over and the arterial. Thus, it does not have to stop and the total travel time for this indirect left tum would equal approximately one-half of the cycle length.
Maleck and Dorothy 1998.
十字路から方向転換交差の構造に移されているというこの距離が、信号制御と移動速度の周期という機能なのである。適切に設計されていれば、上記の左折誘導が青信号から始まった場合、交差点と幹線道路も両方とも青信号で通れることになる。そのため停止の必要がなく、この間接的な左折のための運転時間は、正確に周期の半分の長さと等しくなるだろう。
うまい距離で作れば、信号で止まらずに曲がれるそうな。私のCities Skylines実況動画での再現では、ここまでの再現はされていない。
In urban areas, access to property abutting the freeway is often of such importance as to require parallel frontage roads. In addition, Intelligent Transportation System (ITS) strategies, such as ramp metering, function better with continuous frontage roads. However, the intersections of the frontage roads with the cross-road usually require the use of traffic signals. These closely spaced traffic signals may have a significant negative impact upon the operation and capacity of the cross-road.
Maleck and Dorothy 1998.
都市部では、高速道路に隣接する土地へのアクセスは、平行する側道が必要になる。加えて、ランプの信号のような高度道路交通システムの諸戦略は、側道が連続している場合にうまく機能する。しかし、十字路を持つ側道における交差点は通常、信号利用を必要とする。こうして近くなった場所での信号は、十字路における運用とキャパシティに対して極めて悪い影響を与える。
そう、そもそも従来型のダイヤモンド型ICでは2つの信号制御のみで高速出入口と大通りを同時に交差させるので、ものすごく効率が悪い。これはCities Skylinesをプレイしたことがある誰しもが直感的に理解しているだろう。ダイヤモンド型ICは交通量が増えた瞬間にすぐ渋滞する。
具体的な車の動き②
MUDIのもう一つの特徴として、幹線道路を通らない方向転換について説明がされている。
The addition of U-tum lanes to the cross over structures, as shown in Figure 1.3, is cost-effective when there is a major development or other large attractor of traffic located in the top left or bottom right quadrants of the interchange. For example, freeway traffic traveling from left to right destined for a development in the top left quadrant would exit normally at the ramp to the arterial but immediately use the U-tum structure to access the top frontage road and, thus, the abutting property. This traffic never enters the intersection with the arterial and, consequently, this strategy can significantly increase the capacity of the intersection.
Maleck and Dorothy 1998.
図1.3に示したように、十字路の構造に対してUターンのレーンを付け加えることは、インターチェンジの左上や右下の象限部分に大きな開発や、他に交通量を増やす要因があったりする場合は、費用対効果が良くなる。例えば、インターチェンジの左上部分に建設等の開発があったとして、左から右へ運転する高速道路を通行するとき、通常であればランプから幹線道路に出ることになるのだが、MUDIでは、上の側道、つまり左上の近接物件に行くために即座にUターン構造を使うことになる。この交通は幹線道路のある交差点には決して入らないので、その結果、この戦略は交差点におけるキャパシティを大きく増やすことができる。
これも図で説明しよう。以下のような出発点と目的地に対して、MUDIでは幹線道路を通らない動きになる。
この図から分かる通り、このパターンの場合では幹線道路を通らずに目的地に行くことができる。よって、幹線道路を通る車の量が、従来のダイヤモンド型ICよりも少なくなるわけだ。
結論部
論文では概要のあとに分析が始まる。分析部分はかなり細かく専門的な話になってしまうため、私の解説の範疇を超える。そのため省略して、結論部分を読み進めたい。
結論がpp.34-37に記載されている。この論文で行ってきた検証と、その結果が端的にまとまっている。
The SPUI and MUDI designs were computer modeled using TRAF-NETSIM to facilitate a comparison of their respective operational characteristics. Furthermore, a traditional diamond interchange was modeled to generate a frame of reference for the results. An hour of operation for 300 individual modeling scenarios was simulated. The results of the simulation modeling are based on this finite number of scenarios defined by the four main variables addressed by this study: traffic volumes, turning percentages, frontage roads and distance to the closest downstream intersection.
Maleck and Dorothy 1998. [pp.34-37]
SPUIとMUDIの構造は、それぞれのインターチェンジが持つ運用上の特性を比較することを手助けするために、TRF-NETSIMを用いてコンピューター・モデル化された。さらに、伝統的なダイヤモンド型ICも、結果に対する参考の枠組みを作るためにモデル化された。300種類で個々にモデル・シナリオのために一時間の運用がシミュレーションされた。シミュレーション・モデルの結果は、この研究で取り上げられた4つの変数によって定義された、この有限のシナリオに基づいている。すなわち、交通量、右左折率、側道の有無、下流道路側にある最も近い交差点との距離だ。
いろんなパターンでシミュレーションしたんですね~。
それはともかく、「下流道路」(downstream)という用語について少し解説しよう。対義語は「上流道路」(upstream)だ。出発地と目的地に分けたときの、出発地側を「上流」と呼び、目的地側を「下流」と呼ぶ。ちょうど、川の流れと同じ言い方なので直感的にわかりやすい。本来「道路」という日本語訳はつかないだろうが、私なりに文脈的に意訳をしている。
Not all modeling scenarios that were simulated returned results that were valid. In a limited number of scenarios, a spillback of traffic on one of the model’s entry links resulted in delay occurring outside the environment of the analysis. The measures of effectiveness (MOEs) selected for this study were interchange area total time and downstream area total time, where “total time” is made up of both move time and delay time.
Maleck and Dorothy 1998.
シミュレートされたモデル・シナリオの全てが有効な結果を返したわけではなかった。シナリオの内少しは、モデルのentry links(?)の内の一つで、交通スピルバック現象[※訳注]が、分析における環境の外側で待ち時間が発生する結果をもたらしてしまった。この研究で選ばれた効果測定基準(MOE)は、インターチェンジ区画での総時間と下流道路での総時間であり、ここで言う「総時間」は動いている時間と待ち時間の両方によって構成されている。(※訳注「交通スピルバック現象」(a spillback of traffic)…渋滞が上流まで連なってしまう現象のこと)
申し訳ない、”model’s entry links”がなんのことなのか全くわからず、訳出できなかった。本文を詳しく読めば何らかの情報は得られるかもしれないが、専門用語なのか、何を指すのかすら判断がつかなかった。誰かわかる人がいたら教えてください。とは言えここで述べていることは、MUDIとSPUIとダイヤモンド型ICをコンピューターでモデル化して、色々なパターンでシミュレーションしたよ、ということだ。またシミュレーションの内でいくつかは使えないデータになっちゃったよ、ということもわかる。
そして次の段落から、MUDIがSPUIやダイヤモンド型ICよりも効率的であることが述べられる。
Based on the MOE interchange area total time, MUDI operation, in most situations, is superior to that of a SPUI and traditional diamond interchange configurations. This is true of scenarios modeled both with and without the presence of frontage roads. These operational advantages are most pronounced when the percentage of left-turning traffic is high and the level of saturation is high. In addition, the operational advantages of the SPUI are greatly reduced as the percentage of left-turning traffic is reduced, with the traditional diamond outperforming the SPUI at high levels of saturation and low levels of left-turning traffic.
Maleck and Dorothy 1998.
インターチェンジ区域総時間の効果測定によれば、MUDIを運用すると、ほとんどの状況においてSPUIやダイヤモンド型ICの形状を運用するよりも優れている。このことは側道の存在があろうがなかろうが、両方の場合でのモデル・シナリオで当てはまる。これらの運用上の優位性は、左折交通の割合が多く、また混雑量が多い場合において最も顕著になる。加えてSPUIが持つ運用上の優位性は、左折交通の割合が減るにしたがって著しく低下する。また伝統的なダイヤモンド型ICは、混雑量が多いかつ左折量が少ない場合において、SPUIよりも効率が良くなる。
1970年代に「効率が良くなるだろう」ということで設計・建設されたSPUIだが、意外なことにパターンによっては、従来型のダイヤモンド型ICの方が効率が良い場合があることがわかったという。これは様々なパターンを計算可能なコンピューター・シミュレーションの手法が開発されて以降でなければわからなかった事柄だろう。
「下流交差点へ待ち時間が移動する」
この論文の中で、私が面白いと感じたのは「待ち時間の移行 [migration of delay]」という概念だ。なお”delay”は直訳だと「遅延」となるが、私は交通渋滞についての文脈としてわかりやすく「待ち時間」と意訳した。
The study addressed the concern that greatly enhanced urban interchange configurations may demonstrate an improved operation at the freeway interchange area, but may merely move delay to the first signalized intersection upstream or downstream. Thus, the advantages (if any) of the interchange improvement may be exaggerated. Based on the MOE downstream area total time, there was less migration of delay to downstream intersections with a MUDI configuration than with either a SPUI or traditional diamond configuration. For all scenarios without the presence of frontage roads, the traditional diamond interchange configuration resulted in moving delay to the downstream nodes. While there was no evidence that the SPUI configuration resulted in moving delay to the downstream nodes when modeled with a five-lane arterial cross-road, when modeled with a seven-lane cross-road, the SPUI configuration shows this effect at high levels of saturation. Both the SPUI and the traditional diamond show this effect when modeled with the presence of frontage roads.
Maleck and Dorothy 1998.
この研究は以下のような懸念事項について言及した。大幅に強化された都市部のインターチェンジの諸形状が、高速道路のインターチェンジ区間において運用改善されたことを示すかもしれないが、待ち時間が、上流または下流の道路における最初の信号交差点に移っただけかもしれないのだ。そのため、インターチェンジの改善したことによる優位性が(あったとしたら)、誇張されるかもしれないのである。下流道路区域の総時間でみれば、MUDIの形状がある交差点における待ち時間は、SPUIや伝統的なダイヤモンド型ICの形状の交差点よりも下流交差点へ移行しなかった。側道の存在がない全てのシナリオにおいて、伝統的なダイヤモンド型IC形状は、下流の交差点へ待ち時間が移行するという結果になった。 5車線の幹線交差点でモデル化した場合、SPUIの形状も下流の交差点へ待ち時間の移動をもたらすという証拠はない一方で、7車線の十字路でモデル化した場合、SPUI形状は、混雑量が大きい際は待ち時間の移行が起きることを示した。SPUIと伝統的なダイヤモンド型ICは両方とも、側道の存在があるモデル化の場合において、この待ち時間の移行という現象を示している。
ICのキャパを増やしたところで、次の交差点のキャパが増えなければまた渋滞してしまうという現象がある。この現象は、ある交差点から別の交差点へ「待ち時間」が単純に動いているだけで、道路網としては機能不全のままである。よって、ICの改善や効果測定においては、前後の交差点への影響も加味しなれけば本来の効率化とは言えない、ということがこの論文の結論部で提言されている。
そしてMUDIでは、この「待ち時間の移動」がSPUIよりも少ないことが示されている。つまり、道路網全体の効率化をするにあたっては、MUDIが有効であることがわかったということだ。
なぜか?
それは先に見てきたように、MUDIは方向転換のために運転距離が伸びているのである。このバッファを持たせることによって、通行がスムーズになることと、交差点に来る交通量の負荷を平準化できている。方向転換をする車の動きをあえて長距離にするという逆転的発想だ。この距離のことを「(交通量を)貯蔵する長さ [storage length]」と呼ぶ。また交差点を通らない車のパターンも存在し、負荷分散も図れている。MUDIはICとして多くの車を「貯蔵する」ことになるが、しかし車が動き続ける設計にすることで、実質的には渋滞を減らしてスムーズな移動が可能で、かつ道路網への負荷を分散することに繋がっている。
The affect that the proximity of the closest downstream node has on either the MUDI or SPUI interchange operation was also studied for scenarios without the presence of frontage roads. Based on the MOEs interchange area total time and downstream area total time, MUDI operation, in most situations, is insensitive to the proximity of the closest downstream node, while the SPUI operation is sensitive to the proximity of the closest downstream node. For both arterial cross-sections (five-lane and seven-lane) and all three spacing scenarios of the downstream node, the MUDI configuration showed no evidence of migration of delay. In addition, the SPUI configuration with a five-lane cross-section and 1.6 kilometer (one mile) spacing also showed no evidence of migration of delay to the downstream nodes. However, for higher levels of saturation, all other SPUI configuration scenarios resulted in higher total times, suggesting a migration of delay.
Maleck and Dorothy 1998.
最も近い下流道路の交差点[node]までの近さがMIDIとSPUIの運用に与える影響も、側道の存在がない場合のシナリオにおいて調査された。インターチェンジ区域と下流道路区域の総時間という効果測定基準によると、ほとんどの場合において、MUDIの運用では、最も近い下流道路の交差点までの近さは影響を受けにくい。一方、SPUIの運用では、最も近い下流道路の交差点までの近さは影響を受けやすい。幹線道路の交差点(5車線、7車線)の場合と、下流道路の交差点までの全ての空間距離シナリオにおいて、MUDIの形状は待ち時間を移動させる証拠を示さなかった。加えて、5車線交差点と下流道路側の次の交差点までの1.6kmの距離があるSPUIの形状は、下流道路の交差点へ待ち時間を移動させる証拠を示さなかった。しかしより高い混雑レベルにおいては、全ての他のSPUI形状のシナリオは、より長い総時間と待ち時間の移動を引き起こす結果となった。
一方これまで多くの州で建設がされてきたSPUIは、条件によってはMUDIよりも効率が落ちてしまうということがわかったという。
結論の結論
そして最後に、結論の結論が述べられる。
Based on the simulation modeling performed as part of this study, MUDI operation, in most situations, is superior to that of a SPUI or traditional diamond interchange.
Maleck and Dorothy 1998.
この研究の一部として実行されたシミュレーション・モデルによれば、MUDIの運用はほとんどの状況において、SPUIや伝統的なダイヤモンド型ICの運用よりも優れている。
その後の展開
MUDIはあまり広まらなかった
この論文は全体的にMUDIをべた褒めする内容ではあるものの、多量で良質な情報が得られた。MUDIの効率が良いことがわかったなら、町中のダイヤモンド型ICはどんどんMUDIに改造していけば良い、と思うかもしれないが、結果としてMUDIの新たな建設例はあまり聞かない。その理由はどうしてだろうか?
まず、この論文ではコスト効率の点が記載されていない。つまりMUDIの建設にはどれくらいの金額がかかるのか、という部分だ。これは後追いの論文において、「おそらくはダイヤモンド型ICと同じくらいの建設費用」だということが述べられているが、ダイヤモンド型ICやSPUIからの改修費用についてはノータッチだ。つまり、ゼロから作るのならばコスパは良いが、高速道路網が既に発達しきったアメリカでICを新たに作る機会はそんなに無いだろう。私の推測だが、既存のICの改修のほうが需要があったので、MUDIが広まらなかったではないだろうか。
MUDIの改良型としての”W-Interchange”
ちなみに、2003年にMUDIの改良型として“W-Interchange”という新しい形を考案して論文発表した研究者たちがいた。
Thompson, C. D., Hummer, J. E. and Kluckman, R. C. (2003) ‘Comparison of the New W-lnterchange with Conventional Interchanges’, Transportation Research Record, 1847(1), pp. 42–51. doi: 10.3141/1847-06.
この論文は要旨のみ読んでみたが、このW-interchangeは建設コストが高いそうだ。総建設費用は1,400万ドル(約15億円)と試算されており、これはSPUIよりも400万ドル(約4.4億円)、ダイヤモンド型ICよりも600万ドル(6.6億円)も建設費用が高いという。
しかもMUDIと同等の性能で、場合によってはSPUIよりも性能が悪くなる。それでいて建設費用が圧倒的に高いのだ。要旨の締めに「全体的に見て、W-interchangeはシミュレーション上ではうまく機能した」(Overall, the W-interchange performed well enough in the simulations)と書かれているが、明らかに投資対効果が悪すぎる。当然、建設例は見かけない。
DDIの誕生と展開
このMUDI論文が発表されたのは1998年。この5年後の2003年、ICの中でもトップクラスの効率を誇る「分岐ダイヤモンド型インターチェンジ Diverging Diamond Interchange, DDI」がギルバート・クレウィキー[Gilbert Chlewicki]氏によって論文で発表されるのだ。くしくも、W-Interchangeの発表と同じ2003年だ。
クレウィキー氏によるDDIが発表されて以降、アメリカでは15年程で100ヶ所近くのDDIが建設された。これはかなり驚異的な広がりだ。DDIは、既存のダイヤモンド型ICからの改修が圧倒的に低コストで済み、それにもかかわらず素晴らしい効率が担保できる。DDIが建設され始めてから、DDIの効率が良いことを示す論文がいくつも発表され、加速度的に人気が高まっているようにも思える。
忘れらるるインターチェンジ、それがMUDI
MUDIは1960年代に考案され、ミシガン州のみで運用されてきた高効率のICだった。1998年にようやくその効率の良さが証明されたのだが、時代は既にDDIに移っていったのだった。忘れられてきたインターチェンジ、それが「ミシガン・アーバン・ダイヤモンド型インターチェンジ Michigan Urban Diamond Interchange, MUDI」なのである…というストーリーで語るのも、またドラマチックで良いかな?