分岐ダイヤモンド型IC(DDI)についてのまとめ情報

分岐ダイヤモンド型IC(DDI)についてのまとめ情報

※この記事は、らくしげが2019年に個人ブログに書いた記事を加筆・修正し移転したものとなっています。
※トップ画像は(CC BY 2.0) Oregon Department of Transportation

分岐ダイヤモンド型IC Diverging Diamond Interchange, DDI」という形状のインターチェンジが存在する。以下はらくしげがCities: SkylinesでDDIを初めて再現した実況プレイ動画だ。

DDIは21世紀に誕生し、様々なメリットがあることから、2021年現在アメリカを中心に世界中に建設が進んでいる。

今回の記事ではDDIについての概要(形状と動き)、特徴、背景、時系列での流れ、その後の展開についてまとめてみたいと思う。DDIについては日本語版Wikiepdiaにもその形状が記載されている。英語版は個別ページも作成されており、情報がまとまっている。ただし日本語で体系的にまとまった情報があまりにも少ないため、私自身でまとめることにした。Cities: Skylinesで再現をする人のみならず、インターチェンジに対して興味がある人にも向け、DDIについての各種文献を読み解きながら、背景や詳しい歴史なども少し書いていきたい。

目次
  1. DDIの概要
    1. インターチェンジの形状
    2. DDIのメリット
    3. DDIの発明者:ギルバート・クレウィキー氏について
    4. DDIの名称
  2. DDIについての時系列
  3. DDIが必要になった背景
    1. 現代の交通量に耐えきれない、前時代的なIC
    2. 「代替的なIC」(Alternative Interchange)
    3. ICの第1世代、第2世代、そして第3世代
  4. DDIに関する外部評価景
    1. 初めての外部評価(2005)
    2. 追加での評価
  5. DDIの建設と普及
    1. アメリカにおける初建設
    2. ミズーリ州のDDIに関する評価報告と、増える評価検証
    3. 爆発的な普及:アメリカ国内
    4. 国外への普及
  6. DDIのデメリット
    1. どういった信号周期タイミングがベストであるか、まだ標準化されていない。
    2. IC出口を間違えて下道に降りた場合に復帰できない。
  7. DDI以降のIC
    1. クレウィキーによるDDI改良案
    2. クレウィキー以外によるDDI改良案

DDIの概要

インターチェンジの形状

DDIは以下のような形状になっている。
※注意:アメリカで開発されたICのため、道路は右側通行として描かれている。また、以降の文章で「左折」と書かれているのは優先されていない方向転換。日本で言うところの「右折」に当たる。

DDIの形状
(CC BY 3.0) Riiga一部改変。

このインターチェンジは2つの交差点と、8個の合流点を持つ。ダイヤモンド型ICに非常に似た形をしている。しかし何と言っても特徴的なのは、一般道側の道路の車線が中央で入れ替わっている部分だろう。交差点では直進のみが可能で、Uターンはできない。従来のダイヤモンド型ICは、優先されない左折方向の待ち時間によって渋滞が発生する問題点があった。DDIではこの特殊な形状により、左折への方向転換の待ち時間を短縮している。

なおDDIをCities: Skylines上で再現するには、右左折禁止や一方通行の制御のためにMOD「TM:PE」が必要になる。らくしげが動画で度々制作している形状は、MODを用いないで再現するための方法だ。コンソール版ではらくしげの方法で再現することになる。

DDIのメリット

DDIは効率の良さや改修の容易さを持つ、と発明者が初めに提唱した。そしてその後の数々の研究により、他の観点からも優れたICであるということがわかってきた。以下はDDIを建設することで得られるメリットだ。

  • 良い交通効率(渋滞緩和)
  • 高い安全性
  • 狭い場所でも建設可能
  • 安価な建設コスト(ダイヤモンド型ICからの改修が容易)
  • 歩行者や自転車に対しても利便性がある

ここまで読んで気付く方もいるかもしれないが、いずれの特徴も相対的な基準で述べている。何と比べて「良い交通効率」で「安全性が高い」のか?それは後述していくことになるが、DDI以前に考案されたICの形状と比べて、ということになる。私が勝手につけた用語で呼ぶならば、「第1世代のIC」や「第2世代のIC」と比べて、「第3世代のIC」であるDDIとしての特徴ということになる。ICの世代については「背景」のパートで詳しく説明する。

DDIの発明者:ギルバート・クレウィキー氏について

以下は、「分岐ダイヤモンド型IC」(DDI)を発案した時の学会発表資料。DDIについての原著として様々な論文で引用され、現代的なインターチェンジを研究するにあたっての最重要文献といって良い。

Chlewicki, G. (2003). “New Interchange and Intersection Designs: The Synchronized Split-Phasing Intersection and the Diverging Diamond Interchange”. 2nd Urban Street Symposium: Uptown, Downtown, or Small Town: Designing Urban Streets That Work, Transportation Research Board. http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.538.3372&rep=rep1&type=pdf

ギルバート・クレウィキー[Gilbert Chlewicki]氏(以下、クレウィキーと記載)という交通コンサルタントが、DDIの発明者・命名者である。クレウィキーはDDIの初期案を2000年に大学に提示している。その後に定式化し学会(シンポジウム)で発表したのが2003年。

クレウィキーはメリーランド大学の交通土木工学の修士号を取得後、97年から何社かを経ながら、一貫して高速道路に関する設計業務に携わっている。言わば、学業と実務の両方を習得している人と言える。

2010年に”Advanced Transportation Solutions”(ATS)という交通コンサルティング会社を立ち上げている。これは「代替的なIC」の設計からシミュレーションまでを請け負い、工事プロジェクトを進める会社。2014年にはCEOではなく”Division Director”という肩書になっている。ATSはDDIについての特設ウェブサイトを立ち上げており、認知やブランディング活動を行っている。ウェブサイトのデザインはスタイリッシュで非常に良い。この中でクレウィキーを紹介するページがあるが、「DDIの父」としてかなり褒め称えている。

ただしDDIは、実を言うとクレウィキーが最初に考案したわけではない。これは公式サイトにも書かれている。

DDI初期案を大学に提出した6ヶ月後、彼はフランス旅行中にヴェルサイユのとある交差点でDDIと同じ構造の交差点を発見した。その時彼は驚き、喜んだと同時に、DDIが自分の完全オリジナルではなかったことに少しがっかりしたそうだ。

クレウィキーが出会ったヴェルサイユにあるDDIは以下の場所。(A13/D182)

彼はヴェルサイユ宮殿へのバスツアーに参加中、バスがノルマンディー高速道路(A13)から下道に降りるためにこのICに差し掛かった際、自分が考案したDDIと同じ形状のICのために驚いて立ち上がったそうだ。バスの乗車中は大変危険ですので立ち上がったりしないでください。

上記のように正確にはクレウィキーはDDIの最初の設計者ではなく、命名者だ。ともあれ、その旅行のあとにクレウィキーはDDIを定式化し具体案を完成させて学会に発表したため、発明者と言っても良いだろう。

DDIの名称

“Diverging Diamond Interchange”(DDI)という名称はクレウィキー自身が命名した。場合によっては”Double Crossover Diamond Interchange”(DCD, 二重交差ダイヤモンド型IC)と呼ばれることもある。これらはICについての名称だ。

クレウィキーは2003年の論文で、ICだけでなく交差点についても発表している。交差点の場合の名称は”Synchronized Split-Phasing Intersection”(SSP)だ。日本語にするならば、「同期分割周期型交差点」といったところだろうか。。意味としては、交差点の信号周期が同じ(同期化している)に設定される設計になっていることを示している。なおSSPは今では”Double Crossover Intersection”(略記:”DXI” / “DCI”)と書かれることが多い。

ちなみにクレウィキーが付けた最初の名称は”Criss-Cross Intersection”(「十字型交差点」)だったらしい。しかし指導教官が「80年代ポップ歌手のChristopher Crossが作ったみたいだから、もうちょっと技術寄りな名前にした方がいいんじゃね?」と提案して名前を変えたらしい。なんだそのストーリー。

DDIについての時系列

ここで、DDIについて時系列で情報をまとめておこう。DDIは以下のような変遷を辿って発表、分析、評価、普及、改良がされている。

  • DDIの原案作成~学会発表(2000~2003年)
    • クレウィキーが大学内でDDIの原案をまとめる(2000年)
    • フランス、ヴェルサイユでの特殊な交差点の発見と再構成(2000年)
    • クレウィキー論文の発表(2003年)
  • DDIの評価からアメリカ初建設(2005~2009年)
    • DDIの有効性が初めて外部評価される(2005年) → 後述:Bared, et al. 2005.
    • DDIが初めて建設される(2009年竣工) → 後述:ミズーリ州スプリングフィールド
  • DDIの普及(2009~)
    • アメリカ国内:2019年時点で100ヶ所程の建設例がある。後述。
    • アメリカ以外での建設例:北米、ヨーロッパ、アジア等の各地域でDDIの建設例がある。後述。
  • DDIの改良(2010~)
    • クレウィキーがDDIのバリエーションを発明・発表(2010) → 後述
    • DDIの更なる改良 → 後述

DDIが必要になった背景

そもそも、DDIのような高効率のICが必要になったのはなぜか。自動車と高速道路、そしてICについての歴史を簡単に追って、その背景を説明しよう。

現代の交通量に耐えきれない、前時代的なIC

そもそもアメリカで高速道路の建設が始まったのは20世紀前半。クローバー型ICがアメリカの特許に登録されたのは1916年。しかしそれはすぐには建設されなかった。世界で最初のインターチェンジとして認められるのは、1921年、アメリカのブロンクス・リバー・パークウェイ[Bronx River Parkway]に建設されたものだという。その後、1933年以降に本格的な建設が始まるドイツのアウトバーンによって、古典的なインターチェンジの形状の数々が設計されることになったそうだ。古典的なインターチェンジとはすなわち、ダイヤモンド型IC、トランペット型IC、クローバー型IC、部分的クローバー型ICなど。

第1世代のICの例。カリフォルニア州・アルハンブラにあるクローバー型IC: I-10(Public Domain)
第1世代のICの例。カリフォルニア州・アルハンブラにあるクローバー型IC: I-10(Public Domain)

アメリカでもこの時期から、高速道路がどんどん建設され始める。というのも1933年に大統領に就任したフランクリン・ルーズヴェルトが、景気対策としてアメリカの経済政策史上でも特に有名な「ニューディール政策」を打ち出した。その一環として、1935年に発足した公共事業促進局(WPA)による高速道路+一般道路の建設・整備が本格化したのである。WPAの事業の中でも高速道路+一般道路の建設には多大な予算がついていた。ニューディール政策に対する評価は賛否両論だが、結果として多くの公共事業が進んでいったことは確かだ。

高速道路に対する国からの資金供給は断続的ではあったが、ルーズヴェルト、トルーマン、アイゼンハワーと何代にもわたって事業が引き継がれていった。アイゼンハワー大統領の時代(任期: 1953年~1961年)には「州間高速道路システム(Interstate Highway System)」の計画が打ち出され、アメリカ全土を網羅する高速道路網の建設が更に加速していく。特にこの時代は冷戦真っ只中のために、「防衛のための高速道路建設」という名目のもとで事業が推進された面もある。(参考:California Celebrates 50 Years of the Interstate Highway System | California Depertment of Transportation

高速道路の建設と並行して、20世紀の自動車需要はどんどん増加し、高速道路を走る自動車の量も爆発的に増加していった。世界的に見て、アメリカの自家用車依存度は高いことで有名だ。米国連邦高速道路局(FHWA)が公表している統計データをまとめて、図示してみた。

1930年代~40年代にかけて考案されたICが、増加していく交通量に対応できないことは目に見えている。ICの改修や、これまでのIC建設のやり方を変えることは必須だった。

しかし困ったことがある。アメリカにおける運輸[transportation]に対する政府の投資は1960年代をピークに減少していった。下記はWikipediaにおいて計算されていた、GDPの内の運輸に対する投資の割合のグラフ。目に見えて圧倒的に少なくなっている。

(CC BY-SA 4.0) Wikideas1 交通に支出するGDP割合 https://en.wikipedia.org/wiki/Transportation_in_the_United_States#Funding
(CC BY-SA 4.0Wikideas1 交通に支出するGDP割合 https://en.wikipedia.org/wiki/Transportation_in_the_United_States#Funding

相反する課題が2つ。1つは、より多くの交通量をさばける高効率なICが必要であること。ダイヤモンド型ICのようなボトルネックを増やしてはならない。もう1つは、IC建設費用を抑えなければならないこと。クローバー型ICのような巨大な土地を必要としたり、4層スタック型ICのような運用・保全にも負担がかかる形状の新規建設を避ける必要がある。

「代替的なIC」(Alternative Interchange)

そこで1950年代~70年代にかけて登場したのが、今日では「代替的なIC」(”Alternative Interchange”)と呼ばれている、より大きな交通量をさばくことができる形状のICだ。なおかつある程度の小型で、これまでのICからの改修を前提として考案されていることが特徴である。この時代には「ミシガン・アーバン・ダイヤモンド型IC Michigan Urban Diamond Interchange, MUDI」や、「一点都市型IC Single Point Urban Interchange, SPUI」などのICが誕生する。(ちなみに交差点[intersection]の改良も多く考案されたが、ここではICに限った話題とするため、交差点の形状については省略する。)

MUDIはミシガン州で考案された、ダイヤモンド型ICの改造型のICだ。これは幹線道路上での左折を制限し、「方向転換道路」と呼ばれる通行路を使って、遠回りをして方向転換をしなければならない。一見したところ非効率的であるものの、後の研究により良いパフォーマンスであることがわかっている(別記事にて紹介)。

MUDI概要図 (CC BY 4.0) Rakushige
MUDI概要図 (CC BY 4.0) Rakushige

SPUIは1970年代に考案された、これもダイヤモンド型ICの改良型ICである。ダイヤモンド型ICは2つの交差点があるのに対して、SPUIでは1つの交差点のみを持つ。全ての方向転換が1つの信号で制御される。一般的に渋滞は交差点の近さなどに影響されて発生する。SPUIではこれを逆手に取り、トラフィックが一極集中するものの、交差点の数を減らしてICにおける待ち時間を少なくするという発想で作られている。

SPUI (CC BY-SA 3.0) Nohat
SPUI (CC BY-SA 3.0Nohat

私のブログでMUDIについて紹介した際、後の研究によって実はMUDIは非常に効率が良い一方で、SPUIは状況によってはMUDIやダイヤモンド型ICよりも非効率的になる場合があることがわかった。しかし歴史的には、ダイヤモンド型ICの置き換えとして1990年代にSPUIがアメリカ全土で建設されていった。

ICの第1世代、第2世代、そして第3世代

さて、ここまで記載したICの歴史をまとめて、私なりにICの世代を付けたいと思う。

世代年代ICの種類※
第1世代IC1920年代~40年代ダイヤモンド型、クローバー型、トランペット型、等
第2世代IC1950年代~80年代MUDI、SPUI、CFL、4層スタック型、タービン型、等
第3世代IC2000年代~DDI、Pinavia、改良型DDI群、等
らくしげが考察したICの世代 ※ジャンクションとしてのみ使われている場合も、ICとして記載した。

尚、ICの世代については以下の文献でも語られている。

Leisch, J. P., Morrall, J. (2014). “Evolution of Interchange Design in North America”. Transportation 2014 Past, Present, Future – 2014 Conference and Exhibition of the Transportation Association of Canada. https://www.tac-atc.ca/en/conference/papers/evolution-interchange-design-north-america

ライシュ=モーラルの世代分類は以下の通り。私の考察とは少し違う部分がある。

・黎明期 (1912-1956)
・設計、建設、実験、改良(1956-1984)
・学んだことと新しいアイディアの適用(1984-2014)
・未来(2014、それ以降)

Leisch, J. P., Morrall, J. (2014)

DDIに関する外部評価

初めての外部評価(2005)

DDIについての初めての外部評価は、アメリカ連邦高速道路局(FHWA)の研究者・土木技師、ジョー・G・ベアード博士のグループによって発表された。(尚、この論文では同時にDXI=SSPの評価も行っているが、らくしげの関心はICのため、DDIの記述にのみ焦点を当てて記載していく。)

ちなみにベアードは、クレウィキーと同じメリーランド大学で博士号を取得している。一般道・高速道路に関する情報収集と研究を行い、1990年から一貫してFHWAに所属し、FHWAのウェブサイトや様々な学会誌で情報と研究成果を多数発信している人物だ。ベアードは2003年当時、「代替的な交差点」の形状について探っていた。クレウィキーがシンポジウムにて発表したDDIについて新たな可能性を感じ、FHWAにてすぐさま研究に取り掛かったそうだ。その結果が以下の論考である。

Bared, J., & Edara, P., & Jagannathan, R. (2005). “Design and Operational Performance of Double Crossover Intersection and Diverging Diamond Interchange”. Transportation Research Record. 1912. 31-38. https://www.researchgate.net/publication/245561362_Design_and_Operational_Performance_of_Double_Crossover_Intersection_and_Diverging_Diamond_Interchange

クレウィキーがDDIをシンポジウムにて発表した当時、多くの人たちは懐疑的であったそうだ。上記のベアードによる研究がDDIに関する初めての評価として、DDIの歴史に記述している。これは推測ではあるが、このように特定の名前を出して取り上げているということは、クレウィキーは、FHWAという有名な組織に属するベアードが自分の案を拾い上げてくれたことに感謝をしているのだろうと思う。

さて、ベアード論文の要旨は以下の通りだ。

運輸計画者たちや交通技師たちは、交通ピークの時間帯での混雑を緩和するための方法を発明することに挑戦し続けている。待ち時間[delay *訳注]を軽減し、運転者と歩行者の安全性を改善することがその最優先の動機だ。この目的を達成するための一つの方法は、代替的な交差点やインターチェンジの設計[design]を探ることである。この論文は以下の2種類の新しい代替的な設計についての研究結果を提示する。その設計とは、二重交差型交差点[Double Crossover Intersection, DXI]と、分岐ダイヤモンド型インターチェンジ[Diverging Diamond Interchange, DDI]である。これらの設計は、交通シミュレーションを用いて異なる交通シナリオのもとで研究され、その結果、類似の古典的なインターチェンジの諸構造[designs]と比べた場合、ピーク時間の際により良いパフォーマンスを示した。より良い能力とは、より良いサービスについてのレベル、より少ない待ち時間、より少ない車両の待ち列[queues]、そしてより多い処理量という内容を含んでいる。

Bared, J., & Edara, P., & Jagannathan, R. (2005).

*訳注:交通における”delay”という用語は、専門用語として通常は「遅延」と訳される。ただしらくしげはこの訳を直訳的であり理解がしにくいと判断し、「待ち時間」という意訳を用いることとしている。

クレウィキーがDDIを発表した際の論考では、DDIのシミュレーションを少数のシナリオでしか評価をしていなかった。これに対しベアードの論文では、4車線の場合と6車線の場合で、それぞれ様々なパターンの信号制御によるシミュレーションを行っている。その結果、DDIは従来型のダイヤモンド型ICと比べて、左折できる量が2倍ほどの効率を持つことがわかったという(p.4)。また、DDIは道路の長さを短くしたとしても、従来型のダイヤモンド型ICよりも優れた結果になることもわかった。

結論としてDDIは、交通量が多くなればなるほど従来型のダイヤモンド型ICよりも高いパフォーマンスを発揮する、ということがこの研究によって明らかになった。交通量が少ない場合は、DDIと従来型のダイヤモンド型ICは似たような効率になる。

この2005年の時点でDDIはまだ建設されていない。DDIの最初の建設場所候補はオハイオ州だった。あるICの改修案候補の中でDDIは最後まで優勢だったそうだが、しかし最終的には別の案が採用された。その理由は、DDIが運転者にとって安全かどうかがわからなかったからだ。確かに、車線が入れ替わるという今までの交差点には無い動きがあるため、運転者に混乱を招き事故が発生するのではないか、という懸念があった。

追加での評価

そこで、ベアードの研究グループは上記の研究に続き2007年に、DDIを「運転者の視点」でシミュレーションし、その安全性を評価した。この論考ではシミュレーションに加え、DDIの原型となったフランス・ヴェルサイユでのDDI型交差点の事故統計をまとめ、DDIは従来のダイヤモンド型ICよりもむしろ安全であると評価している。

Bared, J., & Granda, T. (2007). “Drivers’ Evaluation of the Diverging Diamond Interchange”. Federal Highway Administration. FHWA-HRT-07-048. Web. https://www.fhwa.dot.gov/publications/research/safety/07048/

また、ベアードのグループによる評価に続いて、以下のような評価研究もある。「代替的なIC」を全て列挙し、それぞれのメリット・デメリットをまとめている。この中にDDIも含まれている。

Stanek, D. (2007). “Innovative Diamond Interchange Designs: How to Increase Capacity and Minimize Cost”. Conference: Institute of Transportation Engineers Annual Meeting. https://www.researchgate.net/publication/242162688_Innovative_Diamond_Interchange_Designs_How_to_Increase_Capacity_and_Minimize_Cost

DDIの建設と普及

アメリカにおける初建設

ベアードを主とする上記のFHWA研究グループにより、DDIが持つ効率性と安全性の評価がされてきた。その結果として、DDIは2009年にミズーリ州にて竣工された。これがDDIのアメリカでの初建設である。

場所はミズーリ州のスプリングフィールド。I-44のインターチェンジで、Route 13と交差する。もともとダイヤモンド型ICだった場所で、混雑緩和と安全性を改善するためにDDIへ改修された。

その時の費用が320万ドルで、これは円にすると2億9700万円だ(2009年:1$=約93円で換算)。全面的な改修となった場合は1,000万ドル(≒9億3000万円)かかるため、DDIへの改修は想定費用を1/3近くに圧縮できているという。先述の通り、DDIはダイヤモンド型ICからの改修が非常に容易だ。理論上はランプを少しだけ増やし、道路標識と信号制御の調整だけだ。現実には細かな様々な工事が必要になるだろうが、それでもSPUIのような大型の橋や、部分的クローバー型ICでの広い土地にランプを新設する必要がないのは確かで、ローコストで済むのは間違いない。

ミズーリ州のDDIに関する評価報告と、増える評価検証

2010年1月にミズーリ州運輸局がこのDDIの利用者(周辺住民)へのアンケートを実施し、その回答をまとめた報告書を公表している。その結果は、「ほとんど圧倒的な大部分の回答者が、この[DDI建設]プロジェクトによって道路がより安全になり(96.7%)、より便利になり(95.1%)、混雑は少なくなり(95.2%)、運転が簡単になり(86.9%)、より良くなった(89.8%)」という、極めてポジティヴなものだった。

Missouri. Dept. of Transportation. (2010). “Diverging diamond interchange, results from the right transportation solution survey”. staff summary, January 2010. https://rosap.ntl.bts.gov/view/dot/17862

それ以降、多数の研究者・技師によって、DDIを評価する報告・論文が発表されており、DDIがIC界(?)で大きく盛り上がりを見せ始めたことがはっきりとわかる。2011年にはミズーリ運輸局、FHWA、HRD Enineeringの3者共同で行われた建設後の分析結果が公表されている。この報告書は、DDIが分析的に見て渋滞緩和・安全性(事故減少)・自転車/歩行者の使いやすさという、全ての観点から他のインターチェンジよりも優れていることを述べた。

Chilukuri, S. V., et al. (2011). “Diverging diamond interchange performance evaluation (I-44 & Route 13)”. Tech. Rep., HDR Engineering, Organizational Results Research Report for Missouri Department of Transportation. https://rosap.ntl.bts.gov/view/dot/6452

下記には、2012年時点でそれまで発表されたDDIの評価に関する文献がまとまっている。

Anderson, M., et al. (2012). “Analyzing the Diverging Diamond Interchange Using Discrete Event Simulation”. Modelling and Simulation in Engineering. Volume 2012, Article ID 639865. http://dx.doi.org/10.1155/2012/639865

爆発的な普及:アメリカ国内

DDIがアメリカで初めて建設されたのは2009年だったが、その後にいくつかの建設プランが進み、2010年には5ヶ所に増えた。その後増え続け、2013年までに33ヶ所。2019年現在、公式ウェブサイトによればアメリカ国内だけで93ヶ所が運用されており、建設計画や建設中を含めると100ヶ所をゆうに超えるそうだ。

2019年現在はDDIの初めての建設から10年。10年間で100ヶ所も建設がされている種類のICの形状はそうそう無いだろう。2003年に初めて発表された時は注目を浴びなかったものの、2005年の外部評価以降に加速度的に評価が高まり、現在までネガティヴな論調がほぼ無い。ダイヤモンド型ICからの改修として極めて適切なソリューションであることが実績からも伺える。

国外への普及

2019年3月現在、DDIはアメリカ以外の国でもいくつも建設がされている。

日本での建設例は未だ無い。私の勝手な推測だが、まず日本にはダイヤモンド型ICがそこまで多いと言えない。次に、日本におけるダイヤモンド型ICがそこまで混んではいない可能性がある。そのため改修の必要が無い。日本でDDIが時建設されないのは、このような理由が考えられる。

DDIのデメリット

DDIにはデメリットと言えるデメリットが少ないという評価がされている。デメリットよりもはるかにメリットが大きく、アメリカ国内では多く普及している。アメリカで多く普及した理由の一つには、アメリカにもともとダイヤモンド型ICが多く建設されていたこともあるだろう。2003年に発表し、2005年という早い段階FHWAからの評価があったのも大きい。

一応ではあるが、しいて挙げるのであれば以下のようなデメリットがあるだろう。

どういった信号周期タイミングがベストであるか、まだ標準化されていない。

Day, C. M., et al. (2015). “Evaluation of alternative intersections and interchanges: Volume II—Diverging diamond interchange signal timing”. Joint Transportation Research Program Publication No. FHWA/IN/JTRP-2015/27. West Lafayette, IN: Purdue University. http://dx.doi.org/10.5703/1288284316012

DDIには信号機が2つ設置される(私の動画では信号設置はしていない)。その信号をどのような周期でサイクルさせるべきなのか、様々な議論がされている。私が調べた限りでは2019年3月現在、まだ安定した結論が出されていない様子である。私の調査不足であれば申し訳なく、支持されている説があればご教示頂きたい。

IC出口を間違えて下道に降りた場合に復帰できない。

学会やFHWAや業界から指摘されているわけではないのだが、以下のブログ・ライターが、トラックがDDIを通る場合の不便になるであろう点を指摘し、発明者であるクレウィキーへ質問をしている。

[DDIには]出口を通った後に元の高速道路へ戻って行くための用意がありません。
トラック運転手は地図を確認したり電話したりするために、よくランプ側へ出ていきます。また、間違えた出口から出てしまうこともあります。この構造では、再び高速道路へ直接戻る方法が無いです。このことはトラックにとって非常に重要な影響を及ぼすかもしれません。

The Diverging Diamond Interchange – March 21, 2011 | Truckie-D’s Blog
https://truckied.wordpress.com/2011/03/21/the-diverging-diamond-interchange/

私はトラック運転手ではないので実情は知らないのだが、少なくともアメリカでは上記のような使われ方をしているようだ。日本の高速道路では一度出口を通って再び戻ると初乗り料金がかかるため、なにか用がある場合はSAやPAで止まるのが普通だろう。

この筆者は他にも質問・疑問点を書いていたが、明確なデメリットとしてクレウィキーも認めているのは、この「出口から出ると、元の高速道路へ戻ることができない」という点だ。このブログにはそれに対するクレウィキーのメール回答も記載されている。クレウィキーの回答は以下。

ランプ交通で通過する運転動作が無いこと。このDDIの構造が少しだけ後退している一つの点として、これはその通りです。[…]単に次の交差点に行きUターンを大半の運転者にとっては小さな不便さのみで済みます。ご指摘の通り、この動作はトラックにとってはもう少し不便なものです。I-44/SR13のDDI(訳注:スプリングフィールドのDDI)では、私は直接見たのですが、近くの交差点の1つかガソリンスタンドにてUターンをすることは、トラックにとってそこまで難しいわけではなかったです。I-44とSR13の道路の両方でインターチェンジを通るトラックの交通量が多いので、その点が考慮されていたのです。
[…] ここで言われている全ての点を踏まえ、私はランプで通過する動作ができるDDIを設計しました。これは拡張分岐ダイヤモンド型IC ※と呼ばれます。[…]拡張分岐ダイヤモンド型ICにおける唯一の課題は、効果的な構造にするためには、より広い土地が必要なことです。少なくとも完全クローバー型ICと同じ広さが必要です。また、直進しようとするランプ交通が交差点を通過できる量はまだ少し限られています。これはこの構造が非効率になる以前の問題です。

※強調はらくしげによる。

The Diverging Diamond Interchange – March 21, 2011 | Truckie-D’s Blog
https://truckied.wordpress.com/2011/03/21/the-diverging-diamond-interchange/

拡張分岐ダイヤモンド型IC Expanded Diverging Diamond Interchange, EDDI」という、新たなICの設計例を挙げている。これについては次項「DDI以降のIC」で説明しよう。

DDI以降のIC

これまで見てきた通り、DDIは非常に優れたICであるという評価が定着している。しかしそれはダイヤモンド型ICから改修を行う前提になっていたし、多少のデメリットも存在した。そしてDDIの「車線を入れ替える」という構造が左折における待ち時間を解消するということがはっきりと示され、新たなICの形状が様々な研究者・土木技師によって発案されるようになった。これが私の言うところの「第3世代のIC」である。

クレウィキーによるDDI改良案

クレウィキーは2010年、シンポジウムで「分岐ダイヤモンド型ICのいくつかの変形」を発表した。そこでは4種類の新たなICが考案されている。1つは、DDIのデメリットである「出口から入口へ戻れない」というDDIの特徴である「車線の入れ替え」をダイヤモンド型以外のICにも適用するという案だ。

Chlewicki, G. (2010). “Variations of the diverging diamond interchange”. Institute of Transportation Engineers Annual Meeting and Exhibit 2010. 24-38.

この文章はオープンアクセスで公開されていないため、フリーでは読めない。私はこの資料を個人的に入手しており、ここで発表されたICがどのような構造かを知っている。しかしこのブログやYoutube上で発表すると著作権の侵害になる可能性があるため、公表することができないのが残念である。以下に、それぞれの特徴を記載しよう。

  • Expanded Diverging Diamond Interchange (EDDI)「拡張分岐ダイヤモンド型IC」:DDIに高速出口から再び高速入口へ戻るという機能を持たせたIC。しかしこれを建設するには、完全クローバー型ICのような広い土地を必要とするということで、建設は現実的ではなく、理論上可能なICにとどまっている。広い土地を必要とするということは、用地買収費用と建設費用の増加となる。そうなるとデメリットが大きいため、現実での建設例は2021年時点ではまだ無い。
  • Diverging Double Roundabout Interchange (DDRI)「分岐二重ラウンドアバウト型IC」:その名の通り、二重ラウンドアバウト型ICにDDIの特徴である「車線の入れ替え」を導入する。
  • Diverging Partial Cloverleaf Interchange (DPCI)「分岐部分的クローバー型IC」:部分的クローバー型ICにDDIの構造を導入。構造上、中央の車線が多くなる。
  • Diverging Windmill Interchange (DWI)「分岐風車型IC」:風車型ICにDDIの構造を導入。なぜかこれだけWikipediaに形状が記載されている。らくしげ実況S1にて再現。ちなみに英語版Wikipediaにはこの分岐風車型だとして2つのジャンクションが紹介されているが、両方とも誤り。現在はまだ建設されていない。

クレウィキー以外によるDDI改良案

以下はDDIの発案者・クレウィキー以外の人物が考案した、DDIの改良案。いずれも建設例はない。DCMIとSuper DDIを除いて、検索しても出てこないものが多いだろう。私も勉強不足であまり詳細を理解はしていない。

  • Double Crossover Merging Interchange「二重交差合流型IC」:2013年にマイケル・ギングリッチ[Michael A. Gingrich, SR.]が発案。交差を高架化して交差点を無くす。DDIをジャンクション化。特許を取得している。らくしげがDDIとして動画で作っているのは正確にはこのDCMI。しかしCities SkylinesのバニラでDDIを作るのが無理なので、DCMIを作ってDDIとしている。
  • Super DDI「スーパー分岐ダイヤモンド型IC」:交通工学の博士であるアミラーサラン・モラン氏[Amirarsalan Mehrara Moran]が2018年に共同研究者とともに発表した構造のIC。DDIとSuperstreetを組み合わせ、DDIの効率を更に良くしているという。(車両・歩行者の両方の待ち時間減少)
  • Offset Diverging Diamond Interchange (O-DDI)「補正分岐ダイヤモンド型IC」:2014年にリン・ジェイコブス[Lynn Jacobs]が発案。一般道を2つに分けランプを延ばすことで、追加の用地取得をせずに容量を増やす形のDDI。
  • Diverging Diamond Interchange v2「第2分岐ダイヤモンド型IC」:2014年にスミス・シロマスカル[Smith Siromaskul]が発案。中央の道路を4経路にするDDI。
  • (Double) Crossover Roundabouts Interchange「(二重)交差ラウンドアバウト型IC」:2014年にライアン・ハイル[Ryan Hale]が発案。ラウンドアバウトにDDIの概念を導入。

終わりに

以前にライブ実況をしていた際、コメントで「DDIというインターチェンジは、らくしげさんが流行らせた」と言われたことがある。確かにDDIをCSLで最初に再現した日本人実況者は、私が初めてだと思う。その後も事あるごとに「分岐ダイヤモンド型IC」とか「DDI」というのをしきりに発言していた。そうしていくうちに、Cities: Skylinesにおいて私がICやJCTを再現・紹介していったことによって、IC/JCTに興味を持ってくれた人が結構おり、DDIやDCMIなどを作る・紹介する人も出てきたりした。IC/JCT好きの私としては、同じことに興味を持っている人が増えるのが大変嬉しい。

私は日本におけるDDIの情報発信者として、ここには私が知る限りのDDIの情報を詰め込んで書いた。詰め込みすぎて読みにくいかもしれないが、DDIについて興味を持った人が更に詳しい情報を知りたいと考えた時、このブログ記事が少しでも役に立てれば幸いだ。私自身もこのブログ記事を書くにあたり改めてDDIやICについて様々な文献を調べ直し、自分の中でもDDIについての理解がより深まったので、それだけでもかなり意義があった。

現在では、DDIが日本で建設あるいは計画されているという情報は無い。これから建設される見込みは薄いかもしれないが、建設される日が来ることを若干ながら願っている。

終わり。