Cities: Skylines市長にオススメの参考書籍

Cities: Skylines市長にオススメの参考書籍

突然だが

 

日本の街を構成する要素といえば何を思い浮かべるだろうか。

 

実はこれ、私が日本風の街をつくろうとしたときにふと頭にうかんだ疑問だ。首都圏と地方で違うだろうし、沿岸部と山間部でも違うだろう。また、沖縄にはコンクリート製の建物が多く、雪国には陸屋根(平らな屋根)が少ないなど、地域ごとに特色もある。各地の街の成り立ちや特色を知ることは、街づくりの引き出しを増やすこと。CSLを始めてから暇があれば本屋や図書館に足を運び、都市計画、街の特徴、歴史などの情報を収集している。

本稿では、その過程で見つけた「街づくりの参考になる書籍」を3冊ピックアップして紹介する。

今和泉隆行『「地図感覚」から都市を読み解く』

今和泉隆行『「地図感覚」から都市を読み解く』

空想地図(存在しない都市の地図)で有名な今和泉隆行氏であるが、この本では実在の地図から都市の特徴や成り立ちのエッセンスについて多岐にわたり論じている。私がつべこべ説明するよりも、実際に章のタイトルを見てもらった方が本の内容を理解できるだろう。以下は5章以降のタイトルである。

5. 新しい道と古い道 沿道の新旧を比べて見る

車社会への移行は地図を大きく塗り替えた。江戸時代から続く街道では道幅などの問題から増加する交通量に耐え切れずに新道ができる。旧道には古くから続く寺社、信金、個人病院などが多くみられる。対する新道はファミレスや自動車販売店などが目立つ。5章ではこうした新道、旧道の特徴をおさえることができる。

6. 地図模様から生活感と歴史を想像する

区画ができた時代によって道路の模様は変わる。この章では、昔からの街並みと比較的新しい街並みの特徴、また新しい街並みでも年代によって特徴が変わりつつあることが紹介されている。例えば、下の地図は香取市佐原駅付近の地図だが、駅南側は道がうねっており住宅が密集していることから古くからの街並みであることがわかる。反対に駅北側は綺麗に区画整理されており、比較的新しい市街地であることがわかる。


大きな地図を表示
地図が表示されない場合はリロード(F5 または Ctrl+F5)を推奨

7. 都市の発達と成長・年輪を読み解く

地方都市に行くと駅前が閑散としていて、何もないという印象を受けることがある。熊本駅と中心街までの距離は2.3km、徒歩にして30分程度かかる。他にも博多駅と天神、名古屋駅と栄といったように駅と賑わう場所が異なるということが往々にしてある。この違いはどうやって生まれるのか。それは「街ができてから駅ができた」のか「駅ができてから街ができた」のかによる。蒸気機関車の頃は待機、転回するために広大な土地を要したため繁華街の近くに駅を設けられなかった。駅と繁華街に距離ができることで、その間を補完するように街が発展し都市の年輪を創り上げていく。


熊本駅から中心市街地までは結構距離がある
 

以下の章は詳細に説明しないが、非常に興味深い内容が述べられている。

8. 街のにぎわいを決める 人口、地形、集散
9. 街は動く? 街の移動と過去、今、未来

 

CSLは都市開発ゲームであり、やっていることは空想都市の創造である。そういう意味でCSLと空想地図の世界は接点が多い。

CSLプレイヤーにとって空想地図の第一人者である氏の書籍からヒントを得ることは無駄ではないだろう。CSL Map Viewというゲーム内の地図を出力するMODが公開されている。このMODとこの本の知識を使えば地図として見た際の街をチェックすることも可能だろう。逆に、空想地図作者がジオラマ的に街を再現するということもCSLであれば可能だろう。

今和泉隆行『「地図感覚」から都市を読み解く』

 

谷口守『入門都市計画 都市の機能とまちづくりの考え方』

谷口守『入門都市計画 都市の機能とまちづくりの考え方』

この本は日本の町の成り立ちと現在抱えている問題を解説している。例えば、都市圏の郊外には住宅と農地が混在する虫食い状態ような空間が存在する。これはスプロールという都心部から郊外へ無秩序、無計画に開発が拡散していく現象が発生したためである。そして少子高齢化社会を迎えた日本はリバーススプロール(氏の造語)が発生する。例えば、郊外都市でも空き地や空き家が増えている。持ち主の死去であったり、引っ越しであったりとそれぞれ個々の事情で土地を離れるケースであるため、スプロールを裏返したように歯抜けで都市活動が後退するのである。こうなると都市を維持するのが難しくなる。人口が減ったとしても既存の社会インフラの維持費は減らず、自治体からみると収入は減っているにも関わらず支出は横ばいということになる。そうなると削りやすいバスの運行頻度などが見直され、さらに不便になる。これまでは地方だけの問題であったが、これからは都市圏の郊外でも同様のことが発生するのである。

この本の特徴と言えば、未来の都市計画についても考えている点であろう。前述の問題を解決するお手本として、氏はドイツのカールスルーエを挙げている。人口は28万人で日本であれば水戸や徳島が同程度の都市にあたるが、日本のそれと比較するとまちなかに多くの人がいる。これはカールスルーエの「ABCD計画」の賜物であると氏は述べている。具体的には、複数の拠点をA,B,C,Dの人口密度順に配置し、それぞれの拠点をLRTをはじめとする公共交通ネットワークによりつなぐ都市計画である。末端であったとしても10分に1本程度の頻度を確保しており、住民が街中にアクセスしやすい。それゆえに街中が賑わうという循環が生まれるのだ。

この書籍は、日本の都市が抱える課題という観点から日本らしい街の特徴を知るにはよい資料であると考える。また、その課題解決をシミュレートすることも楽しいだろう。幸いなことにCSLには公共交通機関が充実しており、カールスルーエのような計画をあなたの街に取り入れられる。

谷口守『入門都市計画 都市の機能とまちづくりの考え方』

 

岡本哲志『地形で読みとく都市デザイン』

岡本哲志『地形で読みとく都市デザイン』

氏はブラタモリに数多く出演しているだけあって河岸段丘や天然の港など、「地形」に主眼を置いた街の成り立ちを解説している。そのため、元々の地形を活かしたまま、都市にストーリーを持たせたいといった方にオススメ。

最も日本らしい風景は何か。との問いに岡本氏は以下のように回答している。

私は山間、台地、段丘、低地で織りなす田園と、その中心に位置する都市(ここでは宿場町)が水をたくみにネットワークさせて成立するコンパクトな地域環境を思い浮かべる。
(中略)
さらに、よりコンパクトな風景としては、微高地にある集落、その背景にある台地、台地と微高地に挟まれた河岸段丘の斜面緑地で構成される風景を挙げたい。

岡本哲志. 地形で読みとく都市デザイン. 学芸出版社, 2019, p36

平地の少ない日本列島では高低差というのは切り離せない要素ということだろう。その代表例として神奈川県座間、東京都日野、福島県桑折、福岡県吉井を挙げている。氏が考える日本らしい風景を、これらの町を題材に、図表をふんだんに使い丁寧に説明している。読み終わるころには日本らしい風景を鮮明にイメージできるようになっている。


座間の河川敷から見た風景
 

さらに、これでもかというくらいに都市と水関係について言及している。それだけ、生活するためには水が欠かせず、田畑や集落の作りにも影響するということである。大都市では水路が暗渠になっていることが多いが、地方の町では用水路も立派な景色の構成要素である。CSLにおいても水路をうまく活用できればより日本らしい風景を造れるだろう。もっとも、ご存じの通りCSLの水の表現は癖があるため扱いにくいためかなりのチャレンジになる。

この本独自の観点として、神社ごとの分布について述べている。関東に存在する主要神社である香取神社、鹿島神社、氷川神社、杉山神社はそれぞれが被らないような勢力分布をしている。香取神社は利根川流域の南側に、鹿島神社は茨城県と利根川流域の北側に広く分布。氷川神社は荒川流域、杉山神社は鶴見川流域。神社の勢力はそれらが拡大した約1000年前の海岸線や河川と密接に関係しているといえる。CSLでは香取神社をモチーフにしたものをはじめ、大小さまざまな神社アセットが公開されているが、河川ごとに神社を変えてみるというのも面白いかもしれない。

岡本哲志『地形で読みとく都市デザイン』

 

おわりに

現地に行かなくても地図だけでも学びを得られる『「地図感覚」から都市を読み解く』

これまでの都市計画とこれからの都市計画を学べる『入門都市計画 都市の機能とまちづくりの考え方』

地形を活かした都市開発の参考になる『地形で読みとく都市デザイン』

いずれも読み物としても面白く、有益な情報が得られる書籍を中心に紹介した。CSLプレイヤーとしてどの本も読んでおいて損はない。都市計画・都市開発の書籍は油断するといつの間にか絶版になってたりするため、見つけた時が読み時だと思う。また、上記以外にもこれは読んでおくべきという書籍があれば是非紹介してもらいたい。